最低賃金の中長期的な引き上げで合意/成長力底上げ円卓会議

(調査・解析部)

[労使]

政府と労使代表らでつくる「成長力底上げ戦略推進円卓会議」(議長=樋口美雄・慶應義塾大学教授)は6月20日、最低賃金について、「小規模事業所の高卒初任給のもっとも低位の水準との均衡を勘案し、当面5年程度で引き上げることめざす」などとすることで合意した。ただし、小規模事業所の定義では労使の意見が異なり、具体的な目標額は明示されなかった。

高卒初任給の低位水準への引き上げを

会議では、最低賃金の中長期的な引き上げについて、「賃金の底上げを図る趣旨から、社会経済情勢を考慮しつつ、生活保護水準との整合性、小規模事業所の高卒初任給のもっとも低位の水準との均衡を勘案して、当面5年程度で引き上げることをめざす」とする基本方針で合意に達した。

小規模事業所の定義をめぐり対立も

ただし、「小規模事業所」の定義をめぐっては、労使の意見が一致しなかった。労組側は高卒初任給の「平均水準」への引き上げをめざすべきだと主張。その一例として、統計上のデータのある10~99人規模の企業を考えることを提案した。統計では、この規模の初任給は時給換算で755円(第1・十分位数、2007年度)。現行の最低賃金の平均は時給687円のため、このデータを用いれば現行との差の68円だけでなく、それに今後の高卒初任給の引き上げ分を加味した額を段階的に引き上げることが当面の目標となる。

これに対し経営側は、賃金水準が低くなる可能性のある「中小企業の大多数を占め、中小企業基本法に即した『従業員20人以下の企業』」を主張した。内閣府の説明によれば、この規模の高卒初任給のデータはないという。

このほか、基本方針は、高卒初任給の低位水準を「めざす」との表現ではなく、「均衡を勘案して、引き上げることをめざす」にとどめるなど、具体的な基準の検討は08年度の最低賃金の目安を決める厚生労働省の中央最低賃金審議会に委ねた格好。今後は、今月末から始まる予定の厚生労働省の中央最低賃金審議会で目安を設定し、各都道府県の地方最低賃金審議会が目安を踏まえ、地域の賃金や物価動向などを参考に金額を決めることになる。

会議終了後、連合の高木剛会長は、「最低賃金を決める指標の一つとして、高卒初任給を使っていこうという考え方が入ったことは一つの前進だ」と評価。その一方で、「初任給の取り方をめぐる経営側との考え方の違いが最後まで残ったことは、中央最低賃金審議会や地方最低賃金審議会の委員に苦労をかける種を残した」と話した。

めざすべき水準が明らかに

最低賃金は従来、めざすべき目標は定めずに議論され、引き上げ額は年に数円というパターンが多かった(ただし、昨年は平均14円の従来にない引き上げ幅だった)。

今年は生活保護費との整合性などが盛り込まれた最低賃金法の改正(7月1日施行)や今回の合意を受け、今後の中長期的な目標水準を決めたうえで、段階的に引き上げていく考え方を取ることが可能になる。大田弘子・内閣府特命担当相(経済財政政策)は、会議終了後の記者会見で「これまでは、めざすべき水準の議論がないまま、対前年の引き上げだけを議論していた。(今回の合意で)どういう水準をめざすべきかの考え方が明らかにされた」などと評価した。

一方、労働側委員の小出幸男・JAM顧問は、「中央最低賃金審議会の議論をいかに変えるかを最大の主眼としてきた」と指摘した。そのうえで、最低賃金の引き上げ幅が数円にとどまっていたのは、上げ幅の議論のなかで経営側の「中小企業の生産性が上がらなければ(最低賃金は)あげられない」との主張を覆せなかったからだと説明。「この物差しを変えていかねば、また1円2円の時代が来る。今回、高卒初任給を基軸に置くことで賃金を高さでみることがある程度、クリアできた」と述べ、これまでの上げ幅議論だけでなく、絶対額水準で最低賃金の議論を行うことが可能となったことに合意の意義があったことを強調した。

なお、今回の基本方針では、下請け適正取り引きの推進などの中小企業の生産性向上策に政労使が一体となって取り組むことも盛り込まれている。