多くが1,000円の水準改善を獲得/電機連合

(調査・解析部)

[労使]

いわゆるホワイトカラー層の賃金水準を2,000円以上引き上げることを統一要求に掲げた電機連合加盟の大手15組合が12日に受けた回答は、大半が1,000円の賃金改善に集中した。松下や東芝など12組合が1,000円の賃金改善で妥結。昨年の春闘で遅れを取った日立も前年比200円増の1,000円で決着した。昨年要求しなかった三洋電機は800円の回答だった。多くの労組でベアに相当する賃金水準の改善を獲得したのが特徴だ。

時間外割増率と賃上げで交渉が難航

電機連合は、07年春闘から「職種基準による個別賃金要求方式(職種別賃金要求方式)」に移行した。07年は代表的職種として30歳に相当する「開発・設計職基幹労働者」と35歳相当の「製品組立職基幹労働者」の2種類を設定。これを統一要求の柱とし、加盟組合がいずれかを選択して水準の引き上げを追求する形をとっていたが、08年春闘では、統一要求基準を「開発・設計職」に一本化し、2,000円以上の賃金水準の改善を求め、月例賃金で31万円とする産別目標水準も設定した。

しかし、電機産業は業種・業態、企業によって業績のバラつきが大きいことや成果主義賃金が浸透していることなどから、経営側の月例賃金の一律引き上げに対するアレルギーが強い。加えて、今春闘では15年ぶりに時間外割増率の引き上げを要求したことも交渉の負担を重くした。連合の「割増共闘」の旗振り役として、その交渉に多くの時間を割いたものの交渉は難航し、賃上げ交渉も停滞。景気の先行き不透明感の広がりなども相まって、経営側は総額人件費増につながる賃金改善には応じられないとの姿勢を貫いた。特に、職種別賃金の実態が既に産別目標水準を上回る組合では、「会社側が目標水準の31万円を超えていることに強いこだわりを持っており、厳しい交渉となっている」(松下電工労組)との声も出ていた。

そこで、電機連合は回答指定日の2日前に、スト回避基準を (1) 月例賃金については「水準改善500円」とし、(2) 賃金制度の補正や各種手当の拡充などの「賃金体系是正分」も含める、こととし、合わせて1,000円以上の回答を求める戦術を確認。既に目標水準をクリアしている組合は、回答のすべてを「賃金体系是正分等」に配分することも容認する戦術に切り替えた。

8組合が1,000円の水準引き上げで決着

12日の回答指定日には、東芝、日立、富士通、NEC、三菱電機、シャープ、安川電機、富士通ゼネラルの8組合が、賃金水準改善分として1,000円引き上げることで決着。松下電工と富士電機、パイオニアは500円の賃金水準の改善を図ったうえで500円の賃金体系是正分を獲得した。産別の目標水準を大きく上回る松下電器は、1,000円全額を賃金体系是正分に配分。このほか、三洋電機は「500円の水準改善+300円の賃金体系是正分」を獲得。沖電気と明電舎はそれぞれ600円、500円の水準改善を図ることとなった。

この結果について中村正武・電機連合委員長は、「大手労組は、なんとか水準の引き上げをめざそうとの論議を重ねてきた。経営側も開発設計書が国際競争を勝ち抜くための付加価値を生む要の職種であるとの組合の訴えにある程度理解を示した。水準引き上げに固執した単組の努力を多としたい」などと評価している。また、今春闘では、昨年に引き続き、初任給(高卒1,500円、大卒2,000円)の引き上げ要求で満額回答となった。

年間一時金については、三菱電機(5.83カ月)や日立製作所(4.91カ月)などで昨年を上回る一方、シャープ(5.26カ月)が前年比0.04カ月減で決着するなど、業績を反映した結果となった。

働き方の改革に向けて労使協議を継続

電機春闘の目玉のひとつだった時間外割増率の改善要求に関しては、最後まで労使の溝が埋まることはなかった。最終的に「ワーク・ライフ・バランス実現の観点から、その大前提となる長時間労働の是正のため、意識改革、マネジメントの充実などを含めた『働き方の改革』を進めていく」ことで合意。今後は「『働き方の改革』に向けて、長時間労働の是正や時間外割増率の改善等について労使協議を継続する」こととなった。

中村委員長は、「具体的な水準の引き上げに至らず残念と言わざるを得ないが、結果としては継続協議を行うことになった。今後は、時間外割増率改善の必要性についても引き続き経営側の理解を求めていきたい」などと話している。