「実質1,000円の賃金改善を実現」/電機連合

(調査・解析部)

[労使]

電機連合(中村正武委員長)の大手16組合が14日に受けた回答は、松下電器が「賃金改善体系是正分等1,000円」、シャープが「賃金水準改善額1,000円」、他は沖電気工業と明電舎を除く12社が「賃金水準改善額500円」に、100~500円の「賃金体系是正分等」をプラスアルファするほぼ横並びの内容だった。中村委員長は、この日の金属労協(IMF・JC)の会見で「大勢が実質的な1,000円の賃金改善を取ることができた」と評価。争議行動を回避するかどうかの基準となる「賃金水準改善500円」の歯止め基準をクリアし、さらに上積みを図ることができたため、安堵の表情を浮かべた。初任給・最低賃金でも満額回答を果たすなど、「賃金の社会性を重視し、昨年を上回る」とした目標を概ね達成できた格好だ。

労使交渉の進化・発展を模索

電機連合加盟の大手労組は、今春闘から要求方式を職種別賃金に移行。開発設計職と製品組立職から各単組が職種を選択して、その代表ポイントの絶対額を引き上げる要求を行うとともに、統一要求額である一人あたり月額2,000円以上の賃金水準の改善を求めて交渉に臨んだ。しかし、電機産業の業況をみると、業種・業態、企業ごとによって業績はバラバラで、好調な企業と低迷している企業の格差が広がっている。加えて、電機は、成果主義型賃金制度をいち早く採り入れた業界でもあり、大手の多くが各社の事情に応じた賃金制度を整えている。

実際、10日の産別労使交渉後に会見した松下電器の福島伸一常務は、「現場労使が汗をかきながら、人事制度改革に取り組んだこともあり、全部統一することは間尺に合わない」などと発言。さらに、「人材育成やワークライフバランスといった人への投資、働き方への投資が必要になってくるのではないか。労使が知恵を出し合い、進化・発展させていくことを今年から是非取り組んでいただきたい」などと述べ、産業別の統一闘争で月例賃金の引き上げにこだわる交渉からの脱却を暗にほのめかしていた。

賃上げ要求と闘争戦術の方針を転換

こうした経営側の姿勢に対し、電機連合は賃上げのみにこだわり続けると、連合やJCの主張する「昨年を上回る賃金改善」の実現が困難になると判断。争議行動を回避する歯止め基準を決める大詰めの段階で要求の解釈を広げるとともに、闘争戦術も変えることを決断した。

具体的には、月例賃金は「水準改善500円」を歯止め基準に設定。これに、賃金制度の補正や特定階層の賃金カーブの是正、各種手当の拡充といった「賃金体系是正分等」の幅広い人件費の増額を容認することで、昨年以上の上積みを図ることにした。さらに、松下電器など電機連合が目標として掲げている賃金水準を既に上回っている3単組に限っては、さらに基準を緩め、全額「賃金体系是正分等」の回答であっても是認するとした。

なお、この「賃金体系是正分等」の考え方は、06年春闘で基幹労連が口火を切って採り入れ、JAMなど他産別にも浸透しつつある「賃金改善」の取り組みとほぼ同じもの。連合もこうした考え方を織り込んだ春闘方針を掲げている。

闘争戦術についても、経営側の回答が一定基準に達しない場合はストライキに踏み切るとしてきた従来の戦術を見直し、ストは設定せずに残業と休日出勤の無期限拒否で対応することとした。

実質1,000円の賃金改善を獲得

この結果、松下電器は、 (1) 初任給の引き上げに伴う若年層の賃金体系の補正 (2) 企業内最低賃金引き上げに伴う是正 (3) 育児手当の充実――をあわせて「賃金体系是正分等1,000円」の回答で決着。逆にシャープは1,000円全額を基本賃金の水準改善に充てる回答を得た。業績好調の三菱電機など10社は「水準改善額500円」+「賃金体系是正分等500円」の賃金改善を実現。ハードディスクや薄型パネルなどの不振に伴う業績悪化で交渉が難航していた日立は、「水準改善500円」+「賃金体系是正分300円程度」で決着した。是正分は、賃金制度のブラッシュアップに必要な額を算出してものだという。この他、岩通が「水準改善額500円」+「賃金体系是正分100円」、沖電気工業と明電舎は「水準改善額500円」のみにとどまった。回答内容について中村委員長は、「16社の業績がバラつくなかで、ポイントだけ(の絶対額の引き上げ)に絞っていたら、良くて水準改善額500円、下手したら賃金体系維持分のみにとどまっていたかも知れなかった」と話している。

初任給や最低賃金も改善

一時金については、日立が5.0カ月の要求に対し、4.7カ月の回答で妥結。三菱電機は5.5カ月(要求5.78カ月)、シャープは5.3カ月(同5.5カ月)、富士電機5.0カ月(同5.35カ月)で決着した。松下電器や東芝、富士通、NECなどは業績連動型のため要求していない。

初任給・最低賃金については、電機連合の要求基準を上回っている一部の労組を除き、高卒初任給や産業別最低賃金で1,000円引き上げる満額回答で一致した。交渉の過程では、経営側から「初任給だけで会社を選択する人が本当に必要な人材なのか疑問」などの反論があった。とはいえ、現実問題として、景気の拡大で優秀な人材確保が不可欠になっているなかで、最終的に要求が通った形になった。また、初任給の引き上げは、若年層の「賃金体系是正」に少なからず影響を与えたようだ。

最低賃金は、各社が正社員に適用するものだが、「企業内非典型雇用者の賃金決定における準拠指標」(電機連合)でもある。加えて、法定の産業別および地域別最低賃金の運動にもつなげることができる。そこで、電機連合は格差是正の取り組みとして、最低賃金の引き上げを最重要課題と位置づけて交渉に臨んだ。電機連合は「未組織労働者を含み電機産業全体の賃金の底上げと賃金格差の是正に向けた今後の取り組みに大きく寄与するものだ」と評価している。