転勤に関する個人web調査

平成29年12月15日

概要

研究の目的

企業における労働者の転勤については、企業独自の経営判断に基づき行われるものであるが、就職後間もない時期から複数回の転勤が行われることにより、結婚・妊娠・出産・子育てといった、将来のライフプランの設計に困難をきたし継続就業の妨げになる、あるいは家族形成を阻害するとの指摘がある。雇用管理における転勤の位置づけや実態、その効果等について、個人web調査を行った。

本調査は、厚生労働省雇用環境・均等局(当時、雇用均等・児童家庭局)の要請研究である。

研究の方法

調査方法はインターネット調査(スクリーニング調査・本調査)。調査対象は全国の年齢(25歳以上60歳以下)の正社員(農林漁業・公務を除く)。委託会社の登録モニターを対象にスクリーニング調査を実施し、上記の正社員に調査対象を限定(該当する調査対象のみが本調査に回答する方式)。スクリーニングの基準は回収全体で12,000サンプル以上の収集を目標としている。調査実施時期は、2016年9月15日~9月20日。回収数は、本調査:11998ss (SC:50097ss)。

主な事実発見

  • SC(スクリーニング)調査で、転勤の経験の有無を見ると、「国内転勤の経験がある」が26.2%、「海外転勤の経験がある」1.4%、「国内・海外転勤いずれも経験がある」が1.8%となっており、「転勤の経験はない」が70.7%となっている。「転勤の経験がある」(「国内転勤の経験がある」「海外転勤の経験がある」「国内・海外転勤いずれも経験がある」の合計)のは、29.3%。転勤経験の有無について、性別にみると、「転勤の経験がある」の割合は男性33.9%、女性は、「転勤の経験がある」11.6%。
  • 本調査で、直近の転勤経験での赴任先の職種は、国内転勤では、「営業職」が28.2%でもっとも割合が高く、次いで、「研究開発等の技術系専門職」が16.7%、「総務・人事の事務職」が8.4%などとなっている。一方、海外転勤では、「研究開発等の技術系専門職」が23.4%でもっとも割合が高く、次いで、「営業職」が21.2%、「製造・生産現場の作業」が10.4%などとなっている。
  • 直近の転勤経験での転勤後の役職の変化についてみると、国内転勤では、「変わらない」が74.0%でもっとも割合が高く、次いで、「上がった」が22.4%などとなっている。一方、海外転勤でも、「変わらない」が58.9%でもっとも割合が高く、次いで、「上がった」が38.1%となっている。役職が「上がった」とする割合をみると、国内転勤が22.4%であるのに対し、海外転勤は38.1%となり、海外転勤のほうが割合は高い。
  • 直近の転勤経験での転勤後の仕事内容の変化についてみると、国内転勤では、「転勤前と同じ仕事」が41.3%でもっとも割合が高く、次いで、「転勤前と一部異なる仕事」が36.4%、「転勤前と全く異なる仕事」が22.3%となっている。一方、海外転勤は、「転勤前と一部異なる仕事」が45.4%でもっとも割合が高く、次いで、「転勤前と同じ仕事」が35.3%、「転勤前と全く異なる仕事」が19.3%となっている。「転勤前と同じ仕事」の割合をみると、国内転勤が41.3%であるのに対し、海外転勤は35.3%となり、国内転勤のほうが割合は高い。
  • 直近の転勤を経た後の職業能力の変化についてみると、国内転勤の場合、「職業能力が上昇した」(「職業能力が上がった」と「やや職業能力が上がった」の合計)が51.2%、「あまり変わらない」が44.2%、「職業能力が低下した」(「職業能力が下がった」と「やや職業能力が下がった」の合計)が4.6%となっている。一方、海外転勤の場合、「職業能力が上昇した」が76.2%、「あまり変わらない」が21.5%、「職業能力が低下した」が2.3%となっている(図表)。これを赴任先の役職別にみると、国内転勤、海外転勤いずれも、役職が高くなるほど、「職業能力が上昇した」とする割合が高くなっている。赴任後の仕事内容の変化別にみると、国内転勤、海外転勤いずれも、「転勤前と同じ仕事」に比べて、「転勤前と全く異なる仕事」や「転勤前と一部異なる仕事」のほうが「職業能力が上昇した」とする割合が高い。

    図表 直近の転勤を経た後の職業能力の変化(SA)

    図表

  • 既婚者が単身赴任を選んだ理由では、国内転勤では「持ち家があったため」が48.0%でもっとも多く、次いで、「子の就学・受験のため」が44.5%、「配偶者が働いていたから」が26.2%などとなっている。海外転勤でも、「子の就学・受験のため」(42.5%)、「持ち家があったため」(30.8%)などが上位の理由となっている。
  • 転勤に関するルールが「ない」と回答した者について、転勤に関するルールが必要だと思うか尋ねたところ(複数回答)、「ルールが必要だとは思わない」とする者が32.8%あった。必要な具体的なルールとしては、「転勤の期間(長さ)」が46.9%ともっとも多く、次いで、「転勤の時期(年齢、勤続年数、役職など)」が34.6%、「転勤する地域・ブロック」が31.9%となっている。
  • 転勤免除配慮を求めたことが「ある」とする割合は20.5%となっている。これを性別にみると、男性が20.2%、女性が24.2%となっている。転勤免除配慮を求めたことが「ある」とする者について、転勤免除配慮を求めた事情(複数回答)を尋ねたところ、「親等の介護」が30.7%でもっとも多く、次いで、「子の就学・受験」が19.6%、「本人の病気」が19.1%、「持ち家の購入」が14.5%などとなっている。
  • 現在の会社でのあなたの転勤経験に照らして、転勤があることにより、困難に感じることがあるかについては各項目で、「そう思う・計」(「そう思う」と「ややそう思う」の合計)の割合をみると、「結婚しづらい」(28.1%)、「子供を持ちづらい」(31.1%)、「育児がしづらい」(44.5%)、「進学期の子供の教育が難しい」(55.0%)、「持ち家を所有しづらい」(57.9%)、「介護がしづらい」(60.9%)となっている。

政策的インプリケーション

介護や子育て等の様々な理由により、男女ともに、転勤に関して様々な配慮を求める社員が増加している。共働き世帯の増加を背景に、配偶者の転勤に関わる配慮をする企業もある。転勤による社員の教育や組織の活性化等の効果に留意しつつ、転勤が人材確保・定着の制約とならぬように、異動・転勤の雇用管理の在り方を個々の企業が検討することが望まれる。

政策への貢献

本研究は、「転勤に関する雇用管理のポイント(仮称)」策定に向けた研究会への基礎資料を提供した。

本文

研究の区分

課題研究「企業における転勤の実態に関する調査」

調査期間

平成28年度

執筆担当者

荻野 登
労働政策研究・研修機構 労働政策研究所 副所長
奥田 栄二
労働政策研究・研修機構 調査部 主任調査員補佐

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