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第4回 就職氷河期世代・フリーター・ニート

小杉 礼子 JILPT研究顧問

2019年7月5日(金曜)掲載

今年の「骨太方針」には「就職氷河期世代支援プログラム」がもりこまれた。新卒労働市場が特に冷え込んでいた時期に学卒期を迎えた世代(政策的には1993年~2004年卒とされる)で、現在の年齢は学歴によって異なるが、おおよそ30歳代半ばから40歳代半ばにあたる。

若者の雇用問題が深刻化し、わが国で初めての総合的若者雇用対策である「若者自立・挑戦プラン」が始まったのは2003年、この世代はほぼ20歳代であった。「フリーター」を拡大させたのもこの世代だ。この言葉は、1980年代末に、あえて学卒就職を選ばない新しい生き方という意味あいを持って生まれた。しかし、90年代に急増した彼ら・彼女らの多くは、新卒市場の低迷を背景に不本意にアルバイト・パートで働かざるを得ない若者たちであった[注1]

図1は、5歳刻みの世代ごとに、フリーター数が加齢によってどう変化してきたかを見たものである[注2]。各世代が20歳代前半であった年を世代名としているが、97世代と02世代がほぼ「就職氷河期世代」にあたる。図からは、この世代がまさにフリーター増加の主力であったことがわかる。前後の世代のフリーター数は大幅に少ない。

図1 世代別フリーター数の推移

世代別フリーター数の推移を男性、女性別に表した折れ線グラフ

注:フリーターは「年齢は15-34歳、在学しておらず、女性については未婚者に限定し、①有業者については勤め先における呼称がパートまたはアルバイトである雇用者、②現在無業である者については家事も通学もしておらずパート・アルバイトの仕事を希望する者」としているが、ここでは年齢の上限を外して示している。元データは「就業構造基本調査」(総務省統計局)。

この図からはさらに、この世代のフリーターも2000年代半ば以降は減少していることがわかる。景気の改善と各種の若者支援施策が講じられる中で、多くの若者が正社員としての職を得てきた。(ただし、定義上、フリーターからは派遣社員や契約社員、さらに既婚の女性パート等が除かれるので、正社員以外の働き方をしている35~44歳は、現在でも約370万人と多い。)こうした中で、この世代の問題として留意すべきなのは、後から正社員になっても、新卒で正社員として定着してきた人との賃金格差が大きいことである。企業規模の違いが大きな要因だが、それを差し引いても差は残る。

ニート対策もやはり2000年代半ばから始まる。就業していず職業訓練も受けていない、さらに学校にも通っていない若者への注目は、若年失業問題に長く苦しんできた他の先進諸国から学んだものである[注3]。それまでわが国は若年失業率が特に低い国であったが、2003年頃には他の先進諸国と変わらない水準まで悪化した。求職活動をする失業者だけを対象にした施策では若年失業対策は不十分だという各国の経験がニート対策につながっている。わが国におけるニート問題の顕在化は、若年失業率を押し上げた「就職氷河期世代」がきっかけとなったといえる。

ただし、ニートはこの世代が広げたわけではない。図2にみるとおり、フリーターとは異なり特定の世代が目立って多いことはない。むしろ気になるのは、すでに40歳代に達した世代の男性で、近年増加していることである。無業の理由は「病気やケガ」という場合が多い。彼らは、親の世帯に同居していることが多く、いわゆる「8050」「7040」問題につながる。若年ニートのいる世帯との違いは、親世代が年金生活に入り、世帯収入が大幅に減っていることである。家庭内に隠されてきた問題が表面化する可能性が高まっている。

図2 世代別ニート(非求職無業者)数の推移

世代別ニート数の推移を男性、女性別に表した折れ線グラフ

注:ニート(非求職無業者)の定義は「年齢は15-34歳、無業で求職活動をしていない者のうち、卒業者かつ通学しておらず、配偶者なしで家事をおこなっていない者」としているが、ここでは年齢の上限を外して示している。元データは「就業構造基本調査」(総務省統計局)。

就職氷河期世代への集中支援には大いに期待したい。個々の事情にあわせた伴走型の支援を、福祉政策と緊密に連携して相互の利点を生かして行えれば、効果的なプログラムになるだろう。

技術革新やグローバル化が急速に進むSociety5.0においては、新たな技術やネットワークを活用することで、個人の就業を制約していた障壁を乗り越えられる可能性は大きい。そうした展開が進めば、正社員ばかりでなく、個々の事情に対応できる正社員以外の働き方も選択肢として重要になる。ただし、「フリーター」という言葉が不安と低収入の代名詞となっていった過去を繰り返してはならない。新たな技術には労働の2極化をすすめる懸念もある[注4]。それを防ぐために、労働と福祉、教育、あるいは税制などを含めた総合的な政策展開が求められる。

とりわけ職業能力開発への傾注は重要だ。変化の時代には職業能力開発は必須である。費用や時間の制約を含め能力開発の機会が乏しかった人ほど、これからの職業能力開発の必要性は高い。「就職氷河期世代」には、これまでその機会が制約されてきた人が多いだけに、伸びしろが大きい世代だという面もある。この機に、就業の有無や就業形態にかかわらず、成人がその職業能力開発に意欲を持って取り組める体制の整備が進むことを期待したい。

7月25日に開催予定の当機構の「労働政策フォーラム」では「就職氷河期世代」の問題を掘り下げたい[注5]。ぜひご参加を。

脚注

注1 日本労働研究機構(2000),調査研究報告書No.136『フリーターの意識と実態ー97人へのヒアリング結果よりー』など

注2 労働政策研究・研修機構(2019),JILPT資料シリーズNo.217『若年者の就業状況・キャリア・職業能力開発の現状③―平成29年版「就業構造基本調査」より―』

注3 労働政策研究・研修機構(2005),労働政策研究報告書No.35『若者就業支援の現状と課題状―イギリスにおける支援の展開と日本の若者の実態分析から』

注4 OECD(2019),OECD Employment Outlook 2019: The Future of Work, OECD Publishing, Paris.

注5 2019年7月25日開催 労働政策フォーラム『「就職氷河期世代」の現在・過去・未来』

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