港の労使関係─個別企業を超えて推進される港湾民主化・雇用安定化・労働条件向上

要約

本田 恒平(立教大学助教)

本論考は,日本の港湾労働者がなぜ設立当初から産別組合を志向し,個別企業を超えた枠組みで労働条件を決定してきたのかを,その構造的必然性と具体的制度に即して明らかにする。港湾荷役は「労働力需要の波動性」と「貨物の可動性/労働の固定性の非対称性」という根本構造をもち,一港・一企業単位の交渉では,改善が荷主・船社による他港への貨物シフトによって自壊してしまう。この市場構造と重層的下請構造への組織論的応答として,全日本港湾労働組合(全港湾)は1949年に産別単一化を果たし,のちに全国港湾へと結集した。戦災復興後の港湾民主化,コンテナ化,規制緩和という産業全体を一挙に襲う変動に対し,港湾労働運動は,港湾労働法(イギリス港湾労働法を範とする雇用安定制度),産別協定(協約自治による事実上の拡張適用・二層の賃金構造・事前協議制),そして労組労供という複数の制度を積み上げ,個別企業からも個別労使関係からも切り離された産業共通の労働条件と社会保障を構築してきた。港湾の事例は,有効な集団的交渉主体を欠く「ノンユニオン職場」であっても,労使コミュニケーションを産業レベルへ移し替えることで集団的な労働条件決定が可能であることを示す。もっともその実効性は現場組合員の組織的浸透に依存しており,名目的適用範囲と実効的適用範囲の乖離という限界を内包している。


2026年11月号(No.796) 特集●「ノンユニオン職場」における労働条件決定─労使コミュニケーションの可能性と限界

2026年10月26日 掲載