過半数代表制基盤強化の法的正当性─過半数代表の代表性とデロゲーションの正当性

要約

本久 洋一(國學院大學教授)

労働基準関係法制研究会報告書(2025年1月8日)は,過半数代表者の「適正選出と基盤強化」を掲げ,過半数代表制の抜本的強化を提案する。本稿は,過半数代表の代表性とデロゲーションの正当性という視角から,この基盤強化の法的正当性を検討する。過半数代表制は,戦後初期において,労働組合による集団的労働条件決定が一般化するまでの過渡的立法として出発した。しかしその後,対象事項は労基法の枠を超えて膨大な数に及び,他方で選出手続の基盤整備は極めて抑制的な状態にとどまっている。裁判例および実態調査は,代表とは名ばかりの過半数代表者が横行している現状を示し,日立製作所武蔵工場事件,日産自動車事件,三菱重工長崎造船所事件は,多数(過半数)と少数,ならびに多数と個との対立構造を露呈させている。報告書はこれらの問題に対し,使用者による資源提供を主たる手段として応答するが,使用者と過半数代表との対立構造,および過半数代表と労働者との対立構造への視座を欠く。より根本的な問題がある。憲法27条2項の文言から直接導かれる規範内容は,労働基準を法律事項として国会に留保する点にある。過半数代表制は,この法律事項の適用除外の可否を私人の決定に委ねる制度にほかならない。そして,その正当化根拠とされる代表性は,専ら労基法に由来する派生的なものである。ここには,立法者が正当化の担い手を自ら調達するという「正当性の自己循環構造」がある。基盤強化によって代表性がいかに高められても,この循環は破られない。要求されるのは,保護領域の画定と保護水準の担保,そして交渉力の確保である。


2026年11月号(No.796) 特集●「ノンユニオン職場」における労働条件決定─労使コミュニケーションの可能性と限界

2026年10月26日 掲載