現代日本における建築家─評価基準の生成・制度化とキャリア形成
要約
建築家における「成功」の評価基準は,いかに生成され,制度化され,揺らいでいるのか。本論考は,ブルデューの文化資本・象徴資本,および「界」概念を手がかりに,この問いを社会学的に検討する。医師や弁護士と異なり,建築家は資格と職能とが分離しており,その評価基準は法制度ではなく〈建築界〉という社会空間の内部で不断に交渉される。本稿はまず,大学の設計教育やエスキース・講評会を通じて独創性・作家性を重んじる「建築家のエートス」がいかに身体化されるかを論じる。次に,コンペティションや建築賞,国内外のメディア・国際賞が,個々の文化資本を業界内外で流通可能な象徴資本へと変換する認証装置として機能する様態を検討し,その背後にあるジェンダーの不均衡にも触れる。さらに,こうした評価基準がエリート建築家と,地域社会との信頼関係を軸に活動する「街場の建築家」とに非対称に適用され,キャリアの分岐を生んでいる点を,後期近代における個人化の議論も踏まえながら明らかにする。最後に,構造計算書偽装事件以降のリスク社会化と,BIM・生成AIといった技術革新が,独創性を頂点とする従来の評価秩序を相対化し,説明責任・調整能力・信頼形成を新たな評価軸として浮上させつつあることを論じ,才能や技能を活かして働く専門職一般における評価とキャリアの関係を考えるための参照点を提示する。
2026年10月号(No.795) 特集●才能・技能を活かして働く仕事
2026年9月25日 掲載


