日本企業における「特別扱い」のマネジメント─ i-dealsは組織秩序をどう再編するか
要約
本研究は,日本企業におけるスター社員への「特別扱い」に関わる,idiosyncratic deals(i-deals)研究の展開をレビューするとともに,その理論的発展の方向性を検討する。日本企業では,人事制度は公平性や協調を基本としてきた一方,高度人材の獲得・定着のためには,個別的な処遇も求められる。そのギャップをうめるのが,i-dealsを含めたHR practicesである。i-deals研究は,(1)i-dealer本人への効果,(2)同僚への波及効果,(3)職場・組織レベルの文脈要因へと関心を広げながら発展してきた。加えて本研究は,i-dealsを3つの観点から再解釈する。第1に,i-dealsは制度の例外ではなく,新たな人事制度を生み出す組織学習の契機となりうるという点,第2に,i-dealsそれ自体が新たな欲望を生み出し,その欲望を職場内で再生産する契機となる点,第3に,i-dealsが実用的資源であるだけでなく,「誰が評価されるべき人材なのか」を可視化する象徴的資源として,組織の価値観を形成する役割を担いうる点,である。以上を踏まえ,i-dealsを単なる例外対応的なHR programではなく,制度・欲望・価値を通じて組織秩序を形成するものとして位置づけ直す。
2026年10月号(No.795) 特集●才能・技能を活かして働く仕事
2026年9月25日 掲載


