研究者の流動性の把握と実態─データからみる測定と解釈
要約
本稿は,“研究者の流動性”がデータによってどのように測定・解釈されてきたのか,およびその限界について検討する。具体的には先行研究を概観し,国際比較から日本の現状を確認したうえで,流動性を把握するデータと方法,日本の制度・労働市場の下で観測される流動性の性質を検討する。先行研究に基づくレビューでは,移動と研究パフォーマンスとの関係について結果が一致しておらず,その背景には研究者の異質性,成果指標,内生性,移動後の時間経過等の違いがある点が指摘される。データを用いた国際比較では,日本の研究者の国際移動割合が相対的に低いことを確認する一方,国際流動性を示す指標の解釈には,その定義や対象,研究者が置かれた文脈に留意する必要があることを指摘する。さらに,研究者の流動性をとらえるデータとして,論文・特許書誌,履歴・研究者プロフィール,研究費・行政記録,追跡調査等の可能性を検討し,それぞれがとらえる移動の範囲や性質を検討する。加えて,日本の制度・労働市場に着目し,任期付き雇用の拡大,安定的ポストの不足,博士労働市場や産業界における博士人材需要の状況が,研究者の移動とキャリア形成に影響している点を論じる。以上から,研究者流動性を単なる移動回数や移動率で評価するのではなく,移動を生じさせる制度・労働市場上の条件,移動前後の研究・雇用条件,研究者の選択可能性を含めてとらえる必要があることを指摘する。
2026年10月号(No.795) 特集●才能・技能を活かして働く仕事
2026年9月25日 掲載


