スーパースター効果と分配構造

要約

三好 向洋(愛知学院大学講師)

本稿は,所得分布上端への集中と労働分配率の低下を背景に,「スーパースター」をキーワードとする2つの研究潮流を整理する。第一はRosen(1981)である。品質の異なる供給者が完全代替ではなく,かつ同一のサービスを多数の消費者へ低い追加費用で届けられるとき,わずかな才能差が市場規模と報酬の大きな差へ増幅される。この機構は,音楽市場の長期的変化や,地方テレビ局の開局を自然実験として用いた検証と整合する。この型の所得集中は,規模の経済が極端でない限り厚生改善と両立しうるが,少数の地位をめぐる過剰参入や才能の非生産的部門への配分を伴えば厚生損失を生む。第二はAutor et al.(2020)のスーパースター企業仮説である。高マークアップかつ低労働分配率の企業へ売上が移れば,各企業の分配率が変わらなくても集計労働分配率は低下する。米国では,この低下の多くが存続企業間の再配分によって説明される。ただしKehrig and Vincent(2021)は,低分配率が事業所の成長局面で同時に生じる一時的な状態であることを示し,他方でOECD諸国の企業データでは,低分配率が持続する企業への再配分が集計値の低下に寄与していた。Panon(2022)は,外生的な外需ショックを用いてこの再配分に因果的な証拠を与えている。両潮流は,市場規模の拡大が小さな品質差や生産性差を市場シェアと報酬の大きな差へ増幅するという共通の構造を示している。


2026年10月号(No.795) 特集●才能・技能を活かして働く仕事

2026年9月25日 掲載