産業保健におけるポジティブメンタルヘルスとジョブ・クラフティング

要約

櫻谷 あすか(東京大学大学院特任講師)

本稿では,産業保健分野におけるジョブ・クラフティング介入研究の現状と今後の展望について概説した。近年,職場のメンタルヘルス対策では,精神疾患の予防だけでなく,ワーク・エンゲイジメントやウェルビーイングといったポジティブメンタルヘルスの向上が重視されている。ジョブ・クラフティングは,労働者が主体的に仕事の内容や人間関係,仕事の捉え方を工夫することで仕事の資源や個人資源を増やし,ワーク・エンゲイジメント向上に寄与する可能性が期待される。近年ではワークショップ形式やデジタル自己学習型プログラムを用いた無作為化比較試験(RCT)による効果検証が徐々に蓄積されている。しかし,ワーク・エンゲイジメントへの効果に関するエビデンスは未だ十分ではなく,さらなる研究の蓄積が求められる。また,近年ではチームレベルのジョブ・クラフティングを対象とした介入研究も増加しており,その効果検証の進展が期待される。今後の実践においては,「仕事の意味」や「ワーク・アイデンティティ」に着目したプログラムの設計,ジョブ・クラフティング自己効力感の醸成,および上司や組織による支援体制の整備が重要と考えられる。さらに,AIの急速な発展に伴い,労働者のジョブ・クラフティング行動やその効果がどのような影響を受けるかについても継続的な検討が求められる。


2026年8月号(No.793) 特集●ジョブ・クラフティングを問い直す

2026年7月27日 掲載