理念の浸透と従業員のジョブ・クラフティング,および心理的成果の関連性─理念の志向性に着目した多母集団同時分析による差異の検討

要約

大嶋 玲未(目白大学准教授)

廣川 佳子(立教大学客員准教授)

ジョブ・クラフティングが行われる程度や,その結果の現れ方は,社会的文脈によっても異なると考えられている。本研究では文脈要因として,企業の「理念」に注目する。具体的には,理念の志向性(柔軟性・独立性志向―安定性・統制志向,内部統合志向―外部適応志向)による,理念の浸透がジョブ・クラフティングを動機づけ,アウトカムとなる心理的成果に及ぼす影響のメカニズムの差異を明らかにすることを目的とする。オンライン調査を行い,正社員495名(男性305名,女性190名,M=44.24,SD=12.11)を分析対象とした。分析の結果,全体では,理念の浸透がジョブ・クラフティングを促進するとともに,ジョブ・クラフティングが集団内葛藤,ワーク・エンゲイジメントに正の影響,バーンアウトに負の影響を与えることが確認された。次に,理念の志向性ごとの理念の浸透の影響過程の差異を,多母集団同時分析により検討した。柔軟性・独立性志向―安定性・統制志向に注目すると,ジョブ・クラフティングから集団内葛藤へと至る影響の差異を説明できなかった。しかし内部統合志向―外部適応志向に注目すると,ジョブ・クラフティングが集団内葛藤を促進する影響に統計的な差異がみられ,外部適応志向群において,ジョブ・クラフティングが集団内葛藤を促進する傾向が示された。これらの結果から,理念の浸透からジョブ・クラフティング,そして集団内葛藤の促進に至る構造に,理念の志向性による差異が存在することが示唆された。


2026年8月号(No.793) 特集●ジョブ・クラフティングを問い直す

2026年7月27日 掲載