アルゴリズムによる労務管理と労働者の自律性

要約

三家本 里実(福島大学准教授)

昨今,裁量労働制の対象業務拡大に関する議論が活発である。だが,制度導入の是非以前に,近年,労働者が裁量や自律性を発揮する余地はほとんど失われている。労働過程へのAI・アルゴリズムの導入を通じて,労働者が何かを考え,判断する機会が著しく減少しているからである。製造業を中心に人間ではなくAIが生産計画を立てるなど,労働過程のうち構想部分をAIが代替するようになり,また,労働者のスケジュール管理やタスクの配分にとどまらず,労働者を励まし,規律づけたり,労働者管理における意思決定をもAIが担い始めている。こうしたアルゴリズムによる労務管理(algorithmic management)は,従来の構想と実行の分離の延長線上に位置づけられる。構想部分をAIに代替させることによって,管理者は労働者からの抵抗を受けずに労働過程における知の移行を実現することができるからである。労働者を管理するマネジメントの必要性が薄れていくとともに,マネジメントそのものもAIが担う。属人評価が行われている日本企業では,管理者による恣意性を排除できるとして,労働者も好意的にAI利用を受け入れる傾向にある。そして,このようなAI・アルゴリズムによる包摂は,職場・工場の内部にとどまらず,その外部である生活領域にも浸透しており(「総体的包摂」),労働過程における包摂を強化している側面もある。こうした状況のもとでは,労働者が自律性を発揮することは難しく,むしろ管理が強まっているともいえよう。


2026年7月号(No.792) 特集●過酷な労働を取り巻く諸問題

2026年6月25日 掲載