所得と寿命の観点から見た公的年金制度の再分配に関する考察
要約
近年,多くの国で高所得者ほど長寿であるという傾向が確認されており,このような寿命格差は年金制度の公平性や再分配効果の評価に再考を促す。本稿ではまず,社会保障を保険と再分配の観点から位置付けた理論研究や,所得や教育,職業と死亡率・寿命との関係を分析した実証研究を整理する。次に,Sheshinski and Caliendo(2020)に基づいたモデルを用いて,日本の厚生年金制度を近似した数値計算を行い,所得と寿命の正の相関が存在する場合に生涯ベースの純移転がどのように変化するかを分析した。その結果,寿命格差が拡大すると低所得層の生涯純移転は縮小し,高所得層の負担超過は緩和され,年金制度の世代内再分配が弱まることが示された。さらに,日本の産業別死亡率データおよび市区町村データを用いた分析では,所得水準や産業による死亡率格差が存在することが確認された。これらの結果から,日本の公的年金制度を評価する際には寿命格差を考慮する必要があり,給付算定式など制度設計の見直しが政策的論点となることも考えられる。
2026年7月号(No.792) 特集●過酷な労働を取り巻く諸問題
2026年6月25日 掲載


