職場の「過酷さ」をどう捉えるか─日本の過労死等研究と政策を統合する四層モデル

要約

木内 敬太(労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所研究員)

過酷な労働は,過労死等,メンタルヘルス不調,事故,離職を通じて,個人の健康と組織の持続可能性を損なう。職場の「過酷さ」は,長時間労働やハラスメントなど個別要因の有無として断片的に理解されがちであり,負荷の重なり,回復可能性,制度実装との接点は十分に整理されていない。本稿は,日本の過労死等研究と関連政策を統合的に概観し,職場の過酷さを再定義することを目的とする。事案研究,コホート研究,介入研究,実装研究を通覧すると,過酷さは,ばく露,認知的評価,回復・資源,帰結の四層が連鎖する過程として把握できる。事案研究は複合負荷による悪化を,コホート研究は反復ばく露と回復不足の広がりを,介入研究は勤務間インターバルや休息設計の改善可能性を,実装研究は小規模事業場,責任分散,多様な働き方における制度的断絶を示してきた。さらに,運輸業・郵便業では,時間編成,建設業では是正権限の分散,医療・福祉では,情動要求と患者・利用者からの暴力・ハラスメントが,主要な過酷さの増幅要因であった。この四層モデルは,各層の相対的寄与や因果関係を定量的に確定するものではないが,身体的負荷と心理社会的負荷を一連の異なる局面として統合し,一次・二次・三次予防としての制度実装を接続する概念地図として有用である。


2026年7月号(No.792) 特集●過酷な労働を取り巻く諸問題

2026年6月25日 掲載