学卒時のキャリア空白を伴う就業が賃金に与える影響

要約

坂口 裕紀(駒澤大学修士課程)

本稿では,大卒労働市場において,学卒時に空白期間を経験したのちに正規職へ就業したことが,その後の賃金にどの程度影響するのかを検討した。近年,とりわけ2010年以降,雇用慣行や採用行動,景気動向など若年労働市場を取り巻く環境は大きく変化しており,既卒での正規就業がもたらす賃金への影響は,卒業時期(時代)や性別によって異なる可能性がある。そこで本稿では,処置群を「学卒時に空白期間を伴って正規職に就業した者」,対照群を「学卒直後に正規職に就業した者」と定義し,両者を比較することで,既卒就業による効果の異質性を検証した。分析の結果,とくに大卒男性において卒業時期による差が明確に確認された。操作変数法による推定では,1993~2009年卒の男性で約31~39%の賃金低下が見られた一方,2010~2019年卒の男性では約9~10%の賃金低下にとどまった。以上より,1993~2019年卒の男性では,たとえ既卒として正規職に就業できたとしても人的資本の蓄積や初期キャリア形成が阻害され,賃金面の不利が継続することが示唆される。他方で,その不利の程度は2010年代以降に縮小しており,労働市場環境の変化を踏まえた世代別の評価の重要性が示された。

【キーワード】労働市場,労働経済,労働事情


2026年6月号(No.791) ●研究ノート(投稿)

2026年5月25日 掲載