創造性はマネジメントできるのか─評価,報酬および自由と制約のパラドックス

要約

木村 裕斗(東洋大学准教授)

今日の競争的環境においては,従業員の創造性に強い期待が寄せられている。しかし,これを意図的にマネジメントすることは容易ではない。創造性は既存の価値を逸脱する性質を持つことから,それに起因したマネジメント上のパラドックスが内在する。本稿は先行研究のレビューに基づき,以下の3点から議論を行った。第一に,報酬と創造性の関係について,統制的なインセンティブが内発的動機づけを無効化するリスクを指摘し,報酬の情報的機能によって創造性を促進するための条件を整理した。第二に,評価と創造性に関して,アイデアの生成から実現までのフェーズおよびアイデアの文脈的距離・プロセス距離の概念に注目し,革新的なアイデアほど過小評価・排斥されやすい構造的な限界とその対応策を論じた。第三に,自由・制約と創造性について,必ずしも制約のない自由な状況が創造性を高めるとは限らず,むしろ一定の制約を逸脱するプロセスの中で創造性が創発される可能性を示した。以上を踏まえ,トップダウンによる介入の限界を補完するものとして,ボトムアップのイシュー・セリングやチーム学習,創造的逸脱といったプロアクティブな行動が,アイデアの生成と実現に重要な役割を果たすことを指摘した。結論として,創造性のマネジメントは単視点的な施策や規範的なアプローチに依存するのではなく,個人特性と文脈的要因の複雑な相互作用を理解し,パラドキシカルな状況に対峙する現実的なアプローチが求められる。


2026年6月号(No.791) 特集●雇用関係におけるメリトクラシー

2026年5月25日 掲載