「役に立つ」心理学的特性に関する論点─心理学の観点から
要約
近年,日本のみならず各国で,採用・配置・昇進・育成などの人事意思決定において,適性検査や性格検査を含む心理学的アセスメントの利用が拡大している。同時に,オンラインの無料性格診断も普及し,診断結果の共有が日常化するなかで,娯楽的診断と組織で用いられる検査の境界は利用者にとって曖昧になりつつある。本稿は,心理学的検査が「役に立つ」とは何を意味するのかを,パーソナリティ心理学と測定論の観点から整理することを試みる。まず,心理学的概念は直接観察できない構成概念であり,とくに「コミュニケーション能力」のような実務語は多義的であること,さらに同名概念の同一視(jingle)や異名概念の別視(jangle)によって,測定の不一致が生じうることを論じる。次に,妥当性を内容的・基準関連・構成概念の観点から概説し,妥当性を得点解釈と利用の正当性まで含む統合概念として捉える立場についても整理する。さらに,ポジティブ心理学の展開を手がかりとして,概念の望ましさが規範的評価から望ましい結果の予測へと移行してきた経緯を示す。職務成果の予測研究を踏まえ,効果量は実務的含意をもちうる一方で,成果の大部分は他要因に左右され,集団水準の相関は個人の将来を確定しない点を指摘する。最後に,有用性を組織的(意思決定支援)・個人的(自己理解)・説明的(理論的枠組み)の3側面として整理し,妥当性の継続的検証,成果指標の透明化,過度な決定論と自己成就的予言の回避を,責任ある活用の条件として提案する。
2026年6月号(No.791) 特集●雇用関係におけるメリトクラシー
2026年5月25日 掲載


