特集趣旨

初学者に語る労働問題

本特集は,労働問題に関心を持つ初学者を対象に,現代における重要な労働の論点についてできるだけ平易に解説することを目的としている。ここでいう「初学者」とは,大学で労働問題を学び始めた大学生・院生,人事部門や労働組合専従者をはじめとする社会人,また,特定の専門分野において高い専門性を持ちながら,労働問題については学ぶ機会が少なかった方々も念頭に置いている。

労働問題研究の概念や理論は,現象から独立して存在しているのではなく,職場や日常の中で経験される出来事と深く関わっている。本特集は,現実の日常の中で感じるさまざまな疑問や労働問題の基礎的な問いを出発点にしながら,労働問題の論点や専門的概念,既存の議論などを通して,労働問題研究のアプローチを学び,問題解決の糸口へと繫がることを意図している。本特集では,複数の学問領域を横断しながら16のテーマを設定した。

法学の観点からは,職場で直面しうる身近な問いを取り上げ,残業代の不払い問題,アルバイトの賠償責任の範囲,ストライキによって生じた損害に対する組合の責任などを論じている。

経済学の観点からは,マクロ・ミクロ双方の視点から雇用問題にアプローチし,AIの進展と雇用への影響,関税引き上げと国内雇用の関係,地域間の労働需給格差と賃金調整のメカニズムを取り上げる。

経営学・人事管理の領域からは,人材活用の今日的課題を対象として,人的資源管理と人的資本経営の相違点,ウェルビーイングが注目される背景,AIによる人事評価の職場への浸透を扱っている。

労使関係の分野からは,近年注目される労使間の関係に焦点を当て,企業別組合による処遇格差の正当化,退職以外の不満表明の方法,フリーランスによる団体交渉の可能性などを検討している。

さらに社会学・教育学・心理学の観点からは,日本的雇用慣行や労働市場の構造的問題を対象として,移民労働者の増加が労働社会にもたらす影響,就職氷河期世代が生まれた背景とその固定化,「ジョブ型」雇用という概念を用いる意味とその射程,新卒一括採用制度の公平性について論じている。

労働問題の研究は時代とともに展開していく。社会の動きが学問的な刺激となり新たな理論や概念が生まれることもあれば,学術的知見が現実の課題解決に貢献する場合もある。本特集を通して,労働問題研究の基本的な捉え方を学び,ひいては分野を超えた問題解決の糸口を提供すること,それが本特集の狙いである。

(編集委員・山下 充)


2026年4月号(No.789) 特集●初学者に語る労働問題

2026年3月25日 掲載