中途採用市場における職場情報の開示─5社の事例調査から

要約

梅崎 修(法政大学教授)

本稿は,5社の中途採用活動に関する聞き取り調査を通じて,労働市場における職場情報の開示プロセスを検討したものである。資本市場における職場情報の可視化(数値化・記述化)と比較すると,労働市場で実際にやり取りされる職場情報には,数値化・文章化による形式化が困難な側面が多分に含まれていた。こうした「可視化し難い情報」を伝達するために,複数チャネルの併用,エージェント・従業員・退職者といった人的ネットワークの活用,対話的コミュニケーション,さらには職場見学といった多様な伝達手法が組み合わせられていた。また,これらの手法の活用は,開示内容の性質や採用プロセス上のタイミングに応じて操作されていた。要するに,労働市場における職場情報開示は,「可視化できる情報」に「可視化できない情報」をいかに付加できるかが重要な特徴であり,その実現には多くの工夫があった。要するに,職場情報開示においては,「可視化のための努力」と「可視化できない情報を伝える努力」はいずれも不可欠であり,人事実務において,これらの努力を混同してはならないことが示唆される。


2026年1月号(No.786) 特集●情報への配慮・配慮のための情報

2025年12月25日 掲載