ピープルアナリティクスによる企業と従業員の協働的キャリア開発─個人の自律性と組織学習を統合するアルゴリズミック・マネジメント

要約

佐藤 優介(慶應義塾大学大学院特任講師)

羽生 琢哉(慶應義塾大学大学院特任講師)

人的資本経営の核心は,労働者一人ひとりのキャリア自律を,組織が自己変革し続ける「学習する組織」への進化の原動力とすることにある。本稿は,この思想に基づき,個人の自律的成長と組織学習が好循環する「協働的キャリア開発エコシステム」の構築を提案する。このエコシステムは,ピープルアナリティクスとアルゴリズミック・マネジメントを組み合わせて駆動する。具体的には,経営戦略に基づく将来の人材需要予測と,労働者個々のキャリア志向・学習ニーズをデータで可視化・統合し,双方にとって最適な学習機会や役割を動的にマッチングさせる。この仕組みは,単なる効率的な人材配置にとどまらない。個人の主体的なキャリア選択を力強く支援すると同時に,そのプロセスで生まれる多様な知見を組織の戦略的学習へと転換し,旧来の硬直的な人事制度の見直しを促す。本稿は,厳格なデータガバナンスを前提に,「管理」ではなく「支援」としてのデータ活用を実装することで,AI時代における個人のキャリアと組織の持続的成長を両立させる道筋を具体的に示すものである。


2026年1月号(No.786) 特集●情報への配慮・配慮のための情報

2025年12月25日 掲載