労使コミュニケーションと情報への配慮─従業員組織類型による違い

要約

久本 憲夫(京都橘大学教授)

従業員による職場の情報,とくに仕事の進め方などを含めた職場での不平不満について,企業や労働組合がどのように対応しており,従業員あるいは組合員がどのような期待や不安・不信感をもっているのか,それは従業員組織類型によって,どのような差があるのか。本稿では,まずJILPTがおこなった企業調査の個票を従業員調査の個票に紐づけ,従業員組織の形によって4つのパターン(企業別労働組合,発言型従業員組織,親睦型従業員組織,従業員組織がない)に分け,それぞれの類型の企業側の認識,さらに従業員側の認識の違いについて分析する。ついで,同じくJILPTの労働組合に対する調査を検討し,最後にこれらを踏まえて,生き生きとした労使コミュニケーションにとって必要なことについて述べる。本稿の主な結果は以下の通りである。(1)不満を抱えたときにふさわしい仕組みや相談先について,組合員とくに係長/主任クラスの組合員は「自社の労働組合・従業員代表」をあげる率が4割弱に及ぶのに対して,発言型従業員組織のある企業の従業員では1割強にとどまっており,親睦型やそうした組織がない企業の従業員と大差がない。(2)組合独自の苦情相談窓口を設置している労働組合の組合員は組合に対する期待感がかなり高いが,労働組合はその有効性をあまり正しく認識できていない。(3)職場の不平や苦情という情報を組合に表明することが,自分に不利になると考える組合員は,企業に対しても強い不信感をもっている。


2026年1月号(No.786) 特集●情報への配慮・配慮のための情報

2025年12月25日 掲載