賃上げのためのお金はどこへ行ったのか?─労働分配率の低下とコーポレートガバナンス・技術変化の関係
要約
本論文では,上場企業を対象とする1999年から2018年までのパネルデータを用いて,労働分配率の低下要因を実証的に検証した。その結果,労働分配率の低下は企業の資金不足によるものではなく,企業行動を規定するコーポレートガバナンスの変化,技術進歩,そして資本集約的な生産方式への移行に起因することが示された。今後,AIやロボットをはじめとする資本拡張的な技術革新が一層加速すれば,労働者の取り分がさらに縮小する可能性が高い。労働分配率の持続的な低下を食い止めるためには,株主至上主義から,日本経済のかつての特徴であったステークホルダー主義へと再び回帰する必要性があると考えられる。
2025年12月号(No.785) 特集●賃金の現在地を探る─変わったのか,変わっていないのか?
2025年11月25日 掲載


