正社員と非正社員の人事制度の比較分析─スーパーD社における同一労働同一賃金への対応
要約
本稿の目的は,スーパーD社の事例分析を通じて,非正社員の人事制度が正社員の人事制度に接近しているかどうかを検討することにある。日本では,同一労働同一賃金により,均等待遇と均衡待遇への対応が求められている。D社では,同一労働同一賃金の対応をめぐり,労使が対応してきた。異動範囲と担当する仕事が同じであれば,エリア社員を比較対象に,パート社員の時給が設定されている。その水準は同じ等級のエリア正社員より低いが,その差は労働時間の長さと責任の重さの違いを考慮した結果である。また,D社は,正社員の子どもの教育支援のために支給されていた手当を廃止し,その原資を異動範囲と担当する仕事が同じパート社員の賃金表の改定に活用した。さらに,特定の部門の正社員を対象に支給されていた手当を技能手当に改定している。技能手当は,社内検定に合格し,その技能が必要な仕事を担当すれば,パート社員にも支給される。賞与については,同じエリアに住む労働者であるという理由から,異動範囲と担当する仕事が同じであれば,正社員と同じ月数がパート社員に支給される。D社は,2020年度段階で,これらの対応を行っている。2024年には,D社は,パート社員の昇格選考の難易度と均衡させるために,正社員の昇格基準を緩和している。ただし,パート社員は退職金の支給対象外である。とはいえ,D社の事例分析を通じて,同一労働同一賃金により,非正社員の人事制度は正社員の人事制度に接近していることが明らかとなった。
2025年12月号(No.785) 特集●賃金の現在地を探る─変わったのか,変わっていないのか?
2025年11月25日 掲載


