日本企業の人事処遇制度における「職務」
要約
本稿では,日本企業の人事処遇制度において「職務」がいかなるものとして存立しているのかを検討した。明らかになったことはつぎの3点である。第一に,日本企業において「職務」は明確に定義がなされており,またいくつかの評価要素から構成され,時代や環境によって変化していた。「職務」は他国と同様の概念として存立し,かつ日本企業の人事処遇制度において一定の位置を占めている。第二に,日本において「職務」に基づく賃金は企業横断的なものではなく,労使の検討・合意のもとに,企業内部での共通理解を前提として形成されてきた。日本企業の人事処遇制度における「職務」は外部競争性という側面が弱い一方で,内部整合性という側面が強く意識されている。これは,処遇をめぐる納得性を担保するにあたって,組織から人事を発想することを重視しているからに他ならない。第三に,日本企業における「能力」および「役割」は「職務」と密接に関わっていた。1960年代以降,「職務」と「職務遂行能力」の両方を基軸とする企業が存在していた。そして,「職務遂行能力」という概念の確立には職務給の実践によって「職務」を把握できるようになったことが重要であった。また,1990年代後半以降,「職務」と「職務遂行能力」を基軸としていた企業は「役割」を基軸に転換していた。「役割」は「職務」からの連続性があり,「役割」そのものも「職務」をベースに「成果」を加味したものであった。「職務」の存在は非常に大きいと言える。要するに,本稿では歴史分析により,「職務」は他国と同様の概念として存立しつつ,「職務」に基づく賃金は日本独自の展開を遂げていることが明らかとなった。
2025年12月号(No.785) 特集●賃金の現在地を探る─変わったのか,変わっていないのか?
2025年11月25日 掲載


