統計データから見る賃金の現状と賃金制度の変化

要約

中井 雅之(厚生労働省大臣官房公文書監理官)

本稿では,賃金に関する主な公的統計等に基づき,バブル崩壊以降における日本の賃金の動向及び賃金制度について推移と現状を整理する。日本の賃金の長期的な推移をみると,現金給与総額は,2024年時点においてもピークであった1997年の水準を下回っているが,一般労働者,パートタイム労働者別に,あるいは,時間当たりで就業形態計をみると,1997年の水準を上回っており,就業形態の多様化として,相対的に賃金水準が低いパートタイム労働者の割合の上昇と,この間のパートタイム労働者を中心とする労働時間の減少が,総額でみた賃金がなかなか伸びない大きな要因となってきたことが分かる。また,日本における企業の賃金制度は,日本的雇用慣行と連動して運用されてきた。バブル崩壊後の経済の停滞に伴う人件費の抑制の観点から,年功賃金を示す賃金プロファイルのフラット化や,諸手当,賞与,退職金の縮小傾向が進んでいたが,近年,デフレから脱却し,人手不足が続く中,揺り戻しの動きがみられている。また,元々日本的雇用慣行は,男性正社員が中心であったが,就業形態の多様化に伴い,女性雇用者,非正規雇用労働者の大幅な増加が続き,「同一労働同一賃金」が進められる中で,これまで主に男性正社員を想定していた諸手当,賞与,退職金など,各種賃金制度においても,それまで対象としていなかった雇用者層をどう取り込んでいくかが重要となっている。


2025年12月号(No.785) 特集●賃金の現在地を探る─変わったのか,変わっていないのか?

2025年11月25日 掲載