空港保安検査業務にかかる課題と新技術導入の可能性

要約

手塚 広一郎(日本大学教授)

小論では,空港の警備業務の中でも空港保安検査業務に焦点を当て,その法的な位置づけを整理し,人材不足の動向を概観した上で,スマートレーンのような新技術の導入が保安検査員の職場環境に与える効果について,労働力と資本設備の代替・補完関係から検討した。さらに,terminal.0のようなイノベーションを生み出す「場」における技術開発の取り組みについても紹介した。具体的には,第1に,警備業法などから,空港保安検査業務を行うための「法的な要件」を整理するとともに,令和3年の航空法改正にともなう,保安検査業務義務付けなどの最近の動向を紹介した。第2に,保安検査員の就業状況について,保安員の数の最近の推移,年齢構成,就業者・離職者数などを概観し,依然として人材の確保が課題であることを示した。第3に,人材不足に対して,技術的な側面からスマートレーンを導入することの効果と新技術導入の課題を示した。第4に,羽田イノベーションシティ内のterminal.0における技術開発の取り組みである「こころ動かす保安検査場に向けた実証実験」を紹介し,ソフト面の改善によって,検査員の労働環境改善やカスタマーハラスメント防止にも資する可能性があることが示唆された。これらの内容を踏まえると,保安検査分野での新技術の導入は,現状では,労働を資本設備で代替するものというよりはむしろ,職場環境の改善という意味で補完的な役割が強い,と考えられる。


2025年11月号(No.784) 特集●警備の世界における労働問題

2025年10月27日 掲載