警備業─世界と日本の比較考察
要約
1.今日の世界の警備市場を概観すると,西欧,米国等の先進国市場が過半を占め,警備内容を見ると,資本装備型の機械警備等のシェアが拡大してきている。但し,警備業務に精通した「警備員」の果たす役割は依然大きい。2.欧米の警備は古い歴史を有し,英国ではその封建制の時代以降Self-help(自助)をベースに,米国では英国からの独立以降Do-it-yourself(自治)をベースとして「住民主導での警備体制」が導入された。その後,英国では産業革命による商工業の発展や都市の形成に対応し,また,米国では西部開拓と産業経済活動の全国的広がりに対応し,住民や商工業者の負担とニーズを踏まえた警備業の展開拡大が図られた。3.しかし,重大犯罪の増加や犯罪の広域化等に対応すべく英米共に警察制度が導入され,治安維持という点で警察と警備が並走していく。4.第二次大戦後,英米共に,警備業務の増加と通常警備・機械警備・現金輸送警備・ホームセキュリティ等警備業務の多様化・専門化に対応し,英国では国が,米国では州が,警備会社及び警備員にライセンス制を導入し警備業務の実施体制の強化を図り今日を迎えている。5.日本の警備業は1960年代に欧州の警備業をモデルに導入され,以後,今日まで,警備業務の拡大により売上高が3.5兆円に達した。現在,警備企業数は1万社を超え,一方で,機械警備等の資本装備型警備を行う少数の大規模な警備企業,他方で,施設の常駐・巡回警備や交通誘導警備等を担う極めて多数の中小零細警備企業という二重構造となっている。特に,日本特有の交通誘導警備を巡っては,8000社強が警備業務の激烈な受注競争を展開し警備料金のダンピング,警備員賃金へのしわ寄せ等により深刻な労働問題を惹起させており,その早急な改善是正が緊要な政策課題である。
2025年11月号(No.784) 特集●警備の世界における労働問題
2025年10月27日 掲載


