警備員を取り巻く最近の労働事情と課題

要約

田中 智仁(仙台大学教授)

これまで警備員数は堅調に推移してきたが,労働人口減少等の影響により,今後は警備員数が減少に転じる可能性が高く,警備員不足の深刻化が避けられない見通しである。そのため,AI等の導入による省人化と省力化が課題となっており,大手の警備業者はすでにAI等を用いた新しい警備システムを導入している。一方,警備業界は突出した少数の大企業と大多数の中小零細企業で構成され,警備員の在職者数も企業規模によって大きく異なる。中小零細規模の警備業者は,短期計画でAI等を導入できる状態ではない。警備員の担い手は高齢男性が中心であるが,女性や外国人を増やすための働きかけも行われている。しかし,警備員の在職年数は短く,キャリア形成に関する制度上の課題がある。加えて,警備員の業務別教育や有資格者の配置義務等の法的な制約もあり,運用上の課題も山積している。警備員の雇用システムもジョブ型とメンバーシップ型が併存しており,新卒採用に苦慮する警備業者は多いが,日本の雇用慣行の改革に資する可能性もある。また,AI等の導入が進めば,警備員の役割も緊急対処員やオペレーターに変化すると考えられる。2025年8月には「警備業官民協議会」も始動し,官民協同で施策を進める体制も整いつつある。AI等の導入と並行しながら,労働環境の改善と警備員のイメージ改善に資する取り組みを進めていく必要がある。


2025年11月号(No.784) 特集●警備の世界における労働問題

2025年10月27日 掲載