新型コロナパンデミック下で雇用維持スキームの事業主負担が適用労働者数に与えた影響─ドイツ・フランス・イギリスの宿泊・飲食業についての考察

要約

川瀬 健太(厚生労働省企画官)

本稿は,いかなる時期に事業主負担軽減措置を縮小していくべきか,という問題意識の下,ドイツ,フランス,イギリスの新型コロナパンデミック下における雇用維持スキームの事業主負担軽減措置の変更が,宿泊・飲食業のスキームの適用労働者数の推移に与えた影響を検討することを目的としている。このため,宿泊・飲食業に影響を与えた社会制限措置を数値化し,その変動を考慮した上で,社会保険料及び制度適用中の賃金の事業主負担が適用労働者数に与えた影響について検討を行った。重回帰分析の結果は,社会制限措置の動向を考慮しても,社会保険料事業主負担,賃金事業主負担の政策変更が各国の宿泊・飲食業の雇用維持スキームの利用に有意な影響を与えていたことを示しているが,推移を詳細に検討すると,社会制限措置の緩和に伴って宿泊・飲食業における適用労働者数の大幅減少が始まっており,時期によっては,事業主負担軽減措置を維持していたドイツ,フランスが,負担を強化したイギリスと比較しても同程度又はより速く減少していた。本稿の検討結果から,宿泊・飲食業に係る事業主負担軽減措置の政策変更については,指数化した社会制限措置と,雇用維持スキームの適用労働者数の推移も根拠に検討することが考えられる。例えば制限措置の緩和度合いに釣り合う形で適用労働者数が減少している状況下では,事業主負担軽減措置の縮小・廃止を行わないことも考えられるが,本稿の分析からは適切な時期に事業主負担を再導入することの重要性も示されている。

【キーワード】海外労働情報,労働関連統計,労働市場


2025年10月号(No.783) ●研究ノート(投稿)

2025年9月25日 掲載