労働者派遣法─労働契約申込みみなし制度の効果と問題点

要約

小宮 文人(元専修大学教授)

労働者供給の一形態である労働者派遣は,昭和60年制定の労働者派遣法(「派遣法」)によって徐々に解禁され,平成15年には全面解禁された。これにより,労働者の間接雇用に歯止めがなくなり,労働者の雇用が著しく不安定になっていった。この状況に対処するため,平成24年の改正法40条の6によって,「労働契約申込みみなし制度」が導入(27年施行)された。同制度は,重大な派遣法違反があった場合,派遣先は,善意無過失の場合を除き,派遣労働者を派遣元と同一の労働条件で労働契約の締結を申し込んだものとみなすとするものである。この制度は,導入当初多くの社会的関心を集め,これに関する裁判例も一定の数に達している。そこで,本稿において,それらの裁判例を検討して,この制度の実効性とその問題点を考察したところ,同条の「適用を免れる目的」の立証,労働者の「承認」や承諾猶予期間の進行の認識の問題等があるため,派遣先との労働契約を成立させることは困難であることが分かった。その主な原因は,改正法40条の6の規定の仕方に欠陥があるだけではなく,裁判所が労働契約締結の自由を重視する立場から,派遣先に労働契約の締結を強制することを「民事的制裁」として謙抑する解釈姿勢をとっていることにあると考えられる。


2025年10月号(No.783) 特集●非正規雇用の現在

2025年9月25日 掲載