有期雇用労働者の均等・均衡処遇規制の問題点と今後の課題
要約
近年,非正規雇用は多様化し,無期・有期とフルタイム・パートタイムが混在したさまざまな就業形態が存在している。また,「限定正社員」の導入など,正規労働者の働き方も多様化しており,労働者全体にその動きが広がっている。有期雇用労働者の均等・均衡処遇は,パート・有期法8条に規定されている。同条は,有期契約労働者の公正な処遇を図るため,期間の定めがあることによりその労働条件を不合理なものとすることを禁止し,無期契約労働者との間で均衡のとれた労働条件とすることを求める規定である。この規定は現在の有期雇用労働の多様化に十分対応するものになっているだろうか。本研究の目的は,多様化する有期雇用労働者の実像から,有期雇用労働者の均等・均衡処遇規制を捉え直すことにある。本稿では,①企業内の有期雇用労働者の分類から,雇用形態格差は現行法規制(パート・有期法8条や労働契約法18条の無期転換ルール)によって助長された「雇用管理区分による格差(差別)」であることを明らかにしたうえで,②最高裁判決が強調する「人材の確保・定着を図る」という目的は,有期雇用が多様化し,長期間勤続する労働者が増え,逆に,正規労働者の転職市場が活発になる中で,実態にそぐわないものになっていること,③パート・有期法8条の規範的根拠は平等原則にあるから,多様化する正規・非正規間の待遇格差是正のためには,正規・非正規や無期・有期を区別せずに,すべての労働者を職場において等しく平等に取り扱うことを原則とし,合理的な理由がある場合に限り,異なる処遇が許されるという法規制が必要であると論じた。
2025年10月号(No.783) 特集●非正規雇用の現在
2025年9月25日 掲載