雇止め法理における合理的期待と契約構造

要約

篠原 信貴(駒澤大学教授)

本稿は,雇止め制限法理に関する主要な議論のうち,特に不更新条項と労働条件変更に関する議論を取り上げ,その法的構造と外縁を分析するものである。そもそも雇止め制限法理は判例法理として形成されたが,労働契約法19条に引き継がれ,同条1号2号における「適用審査」と本文における「効力審査」とに制度化された。裁判所及び労働契約法19条は,有期契約・無期契約に加え,雇止め時に解雇権濫用法理が類推適用される有期契約という,第三の類型(中間的契約)を創出したと評価できる。不更新条項については,雇止め法理の対象となる契約を有期契約(中間的契約)と無期契約のいずれに近づけて考えるか,更新の合理的期待は更新時に減少しうるのか,適用審査と効力審査をどの程度峻別すべきか,どのような法的合意として構成されるべきか,といった点で対立しているものと捉え,検討した。更新限度条項についても基本的には同様であり,無期転換申込権の行使を阻害する効果が生じている場合を念頭に,その有効性が争われている。労働条件の変更に関しては,雇止め法理の適用範囲や適用審査及び効力審査の審査基準が主要な争点である。本稿では,こうした議論を整理しつつ理論的対立点を明らかにし,中間的契約として雇止め法理を理解する立場からの帰結を示した。


2025年10月号(No.783) 特集●非正規雇用の現在

2025年9月25日 掲載