正規・非正規雇用の健康格差─呼称と社会保険加入に注目して

要約

小前 和智(社会保険労務士法人あかつき)

茂木 洋之(国立社会保障・人口問題研究所主任研究官)

本稿では正規雇用と非正規雇用の健康格差の実態と要因を分析した。また社会保険(健康保険・年金・雇用保険)の加入状況における格差も考察した。非正規雇用は一括され正規雇用と比較されるか,特定の形態に焦点を当てて議論されることが多いが,本稿では非正規雇用内の,雇用形態の詳細まで考察した。その結果,以下のことがわかった。(1)健康状態は非正規雇用といっても,アルバイト・パート,契約社員,派遣社員,嘱託社員など,非正規雇用形態によって多様である。特に,男女ともに派遣社員の健康状態が悪い。(2)計量分析をすると,繰り返しクロスセクションデータとしての分析では,先行研究通り非正規雇用は正規雇用よりも健康状態が悪い。ただ,固定効果を考慮するか,またはさまざまな労働条件を制御した上で分析すると,むしろ正規雇用の方が健康状態は悪い。(3)労働条件として,男女ともに長時間労働は健康に悪影響である。また,無期契約は女性労働者の健康状態に良い影響を与える。(4)健康格差は呼称による非正規の定義で多くを説明できる。(5)非正規雇用はいずれの呼称においても,正規雇用と比較して,健康保険・年金・雇用保険の加入率が低い。特にこの傾向は,男女ともにパート・アルバイトについて顕著である。


2025年10月号(No.783) 特集●非正規雇用の現在

2025年9月25日 掲載