統計からわかる非正規雇用の現在地

要約

高橋 康二(JILPT主任研究員)

本稿では,主要な公的統計等に基づき,約40年間で非正規雇用の担い手と就労実態,労働者の意識等がどう変遷してきたかを概観する。公的統計において労働者を勤め先での呼称により区分し,「パート・アルバイト」「嘱託など」といった「正規の職員・従業員」以外の労働者の人数と実態を捉える試みは,1980年代に始まった。当初,それら非正規雇用の中心的な担い手は家計補助的に働く「主婦パート」であったが,バブル経済崩壊後に若年やフルタイムの労働者が加わり,2000年代に入ると正規・非正規による格差社会の到来,「不本意非正規」の増加と滞留が懸念された。これに対し,2010年代には,非正規雇用労働者保護を目的とする法律・政策の導入により,また労働力不足の進行も相まって,女性や若年者の間では,正規・非正規による格差社会的状況や「不本意非正規」問題は,一定程度は縮小した。しかし,それらの状況や問題が縮小しても,経済社会の変化の中で,非正規雇用に関わる新たな課題が生み出されている。具体的には,増加する高年齢非正規雇用労働者の職務と処遇の設計,スマートフォン・アプリを介した短期・単発労働の実態把握,フリーランス,プラットフォーム労働への法的・政策的対応等が挙げられる。


2025年10月号(No.783) 特集●非正規雇用の現在

2025年9月25日 掲載