ドイツの「包摂的な労働市場の促進に関する法律」による障害者雇用の推進の動向
要約
本稿は,ドイツで2023年に成立し,2024年1月に全面施行された「包摂的な労働市場の促進に関する法律」に焦点を当て,同国の障害者雇用施策の現状と制度改正の要点を整理し,日本の制度検討に資する資料を提供する。ドイツでは,障害者雇用率制度,福祉的就労(障害者のための作業所)や中間的就労(包摂事業所),就労支援サービスと給付制度(労働予算や雇用主のための一元的な相談窓口等)といった多層的な仕組みが整備されてきたが,一般労働市場への移行率の低迷,職業マッチングの不全,給付手続の遅延が課題とされていた。本法は,①ゼロ雇用企業への負担調整賦課金の倍額化(新カテゴリ創設),②賃金補塡上限の一部撤廃と雇用率のダブルカウント,③包摂事業所の地位の明確化,④負担調整賦課金の使途の一般雇用促進への集中,⑤統合局の給付決定の迅速化保証,⑥参加に基づく障害認定を検討する専門家会議の新設などを柱とする。これらは包摂的な労働市場の構築と熟練労働者不足の解消という2つの社会課題の解決を同時に追求する総合的改革であり,日本の就労継続支援事業や雇用率制度の今後のあり方に対して示唆を与える。本稿は,障害者雇用政策における3つのモデルと国連障害者権利委員会によるドイツ及び日本における課題の指摘を概略するⅠ,ドイツ制度の現状を概観するⅡ,本法の改正内容を紹介するⅢ,日本への示唆を論じるⅣで構成される。
【キーワード:障害者労働問題,雇用政策,労働市場】
2025年8月号(No.781) ●研究ノート(投稿)
2025年7月25日 掲載