ヘルスコミュニケーションの枠組みに基づく中小企業経営者に対する「治療と仕事の両立支援」の推進

要約

島崎 崇史(東京慈恵会医科大学講師)

山内 貴史(東京慈恵会医科大学准教授)

須賀 万智(東京慈恵会医科大学教授)

「治療と仕事の両立支援」は,厚生労働省が推奨する,労働者が病気になったとしても就労を継続するための支援枠組みである。一方,治療と仕事の両立支援に対する認知度は低く,特に中小企業経営者を対象とした情報の普及が課題である。本稿では,健康・医療情報の効果的な普及について体系化したヘルスコミュニケーションの枠組みに基づき,中小企業経営者の治療と仕事の両立支援に対する興味を引き出す啓発資材の開発をおこなった事例を紹介する。はじめに,有識者を対象として,中小企業経営者の健康に関連する態度,興味を示す健康情報の内容,および情報の効果的な普及経路に関するフォーマティブリサーチをおこなった。フォーマティブリサーチの結果をもとに,治療と仕事の両立支援の推進を促すチラシを作成した。チラシの表面は,中小企業経営者の関心を引き出すために視覚表現効果およびティップの手法を用い,動物のイラストと気づきを促す短い文言により構成した。裏面の内容は,治療と仕事の両立支援を推進することにより得られるメリット・推進しないことによるデメリット,推進の素地となる職場の協調的な組織風土の醸成に関する情報,および情報ウェブサイトである「治療サポ」へのリンクにより構成した。作成したチラシについては,実際の中小企業経営者からの評価を得た。今後は,治療と仕事の両立支援のみならず,多様な政策・制度に関する情報の普及における,ヘルスコミュニケーションの枠組みの適用が期待される。


2025年8月号(No.781) 特集●人事施策はいかに浸透するか

2025年7月25日 掲載