海外における公的大規模データの利活用の現状
要約
本稿では,公的大規模データに関する提供形態とデータの提供にあたって適用されている秘匿措置の特徴を述べた上で,海外における公的大規模データの作成・提供の動向について明らかにした。また,イギリスを例に,個体情報が保護される形でリンケージされたデータの作成の動向を概括し,わが国における公的大規模データの利活用をめぐる課題についても考察した。海外では,安全性・秘匿性および有用性のバランスを取りながら,各種の公的大規模データの提供を行っており,それは,個票データと秘匿処理済みミクロデータに類別される。前者は,法制度や統計技術による秘匿措置,さらに組織的な対応によって,リモートアクセスを含む安全な分析環境を担保することで,リンケージデータのアクセスを含む利用者のさまざまなニーズに対応した利用サービスを可能している。一方で,後者に関しては,秘匿性の強度とデータに含まれる情報の粒度,データの利用目的に合わせて,学術研究用ファイル(Scientific Use File=SUF)や一般公開型ファイル(Public Use File=PUF)が作成・提供されている。わが国では,学術研究を指向した公的大規模データにおけるリンケージは,統計作成者側と利用者側との信頼関係を前提としつつ,統計法制度を踏まえて議論する必要がある。また,攪乱的手法の適用可能性を追究した上で,オンデマンド集計によるデータの提供やPUFの作成・公開のあり方を検討することも求められよう。
2025年6月号(No.779) 特集●公的統計データ利用の現状と課題─行政と研究者のコラボのために
2025年5月26日 掲載