公的統計の作成における課題と対応
要約
近年,公的統計の作成において不適切な処理が相次いで発生している。国の行政組織が関わる事案について,統計を所管する省は経済産業省,厚生労働省,国土交通省と異なるが,いずれも不適切な処理が10年以上継続していて,発覚後も暫くの間,先送りされていた。事案の詳細はそれぞれ相違するが,その発生の背景には共通するものがある。①統計業務が組織の中で軽視され,漫然と続けられていたこと,②統計に対する専門的知識がない者が十分な研修を受けることなく,統計業務を担当していたこと,③統計に係る人員と予算が趨勢的に減少するなかで,全体として担当者が業務過多となっていたこと,④府省間だけでなく,府省内でも担当者間で業務が分断され,加えて管理職と実務者の間で情報が共有されないといった,組織のガバナンスに欠けていたこと等が指摘される。これは統計作成の体制が2000年にかけて大きく変わったことに因るところが大きく,不適切事案の発生も軌を一にする。このような状況を招来したのは,経済・社会の変化に対応した統計情報の提供や作成方法の変革を怠ってきたことが根底にある。本稿では,統計の改善に向けてどのような対応を図るべきかを検討する。求められる統計をいかに作成するか,その方策として,統計作成に行政記録情報を活用し,デジタル化を推進する,統計の棚卸しと民間情報の活用を講じる,調査員調査を見直す,統計が広く利活用される方向を目指す等を提示する。
2025年6月号(No.779) 特集●公的統計データ利用の現状と課題─行政と研究者のコラボのために
2025年5月26日 掲載