ストライキと組合活動の経済学的考察─日本の労働組合員の意識データを用いた実証分析
要約
近年,日本ではストライキがほとんど発生せず,その背景として労働組合の交渉力低下や労使協調路線の普及が指摘される。本稿は,日本におけるストライキの減少要因を探るため,その一次接近として労働組合員の組合活動への関与を経済学的視点から実証分析した。先行研究の整理から,Hicks(1963)の「抵抗曲線」「譲歩曲線」モデルや,Ashenfelter and Johnson(1969)の交渉理論を基に,情報の非対称性を軸としてストライキの発生メカニズムが理論的に分析され,それに基づく実証分析も蓄積されてきたことが分かったが,日本に特化した実証研究は乏しい。また,先行研究では労働組合が組織としてストライキを起こすメカニズムの分析が中心であるが,そもそも組合員個人がストライキ等の組合活動に参加するか否かを分析することも重要である。こうした分析もまだ少ない状況である。そこで本稿では,組合員個人レベルの大規模データを用い,(1)組合活動のコスト,(2)組合活動のベネフィット,(3)労働運動・社会運動への関心の3要因を,組合活動への関与を説明する仮説として検証した。分析の結果,組合活動のコストが高い回答者は関与を弱める傾向にあり,ベネフィットが大きい場合や労働運動への関心が強い場合は,関与が高まることが示された。近年の大卒者増加や家計所得の増加,労使コミュニケーションの改善,労働運動への関心低下が組合活動の関与を弱め,ストライキの減少につながっている可能性が示唆された。
2025年5月号(No.778) 特集●ストライキ
2025年4月25日 掲載