戦後日本におけるストと労使関係─石炭産業の事例

要約

島西 智輝(立教大学教授)

本稿の目的は,第二次世界大戦後に三池争議などのさまざまなストを闘ってきた石炭産業のストを検討することをとおして,戦後日本におけるストの意義と限界を考察することである。産業別労働組合である日本炭鉱労働組合(炭労)の統治構造,および労使交渉に「埋め込まれた」ストに注目して複数の炭鉱ストを検討した結果,以下の点が明らかとなった。第一に,炭労が炭鉱ストで統一闘争を維持できなかったのは,炭労の労働運動が事業所別・企業別労使関係を基盤としていたためだった。日本において産業レベルで統一ストを闘うには,組合民主主義を基盤とした産業別労組トップがリーダーシップを発揮し,事業所別・企業別労使関係から離れた本部専従職員が指導することで,中央集権的な統制を行わざるを得ないことを,炭鉱ストの事例は示しているといえる。第二に,炭鉱ストは単位組合や企業別連合体が統制力を発揮し,団体交渉では得られなかった経営者側からの譲歩を引き出すこともあった。したがって,炭鉱ストは事業所・企業レベルにおいて実効性のある争議行為のひとつだった。第三に,ストが「埋め込まれた」大手炭鉱の閉山反対闘争によって,地方自治体は閉山対策を準備することが,そして労組は閉山条件の積み上げが可能になった。「埋め込まれたスト」は,単なるセレモニーではなく,閉山反対闘争の実質化のために不可欠だった。炭鉱ストの事例は,産業別の統一ストでなくても,労組側が勝利する見込みがなくても,さらにはスケジュール闘争であっても,団体交渉とともにストを構えることが,労働争議とそれに付随する諸問題を解決する手段として有効なことを示している。


2025年5月号(No.778) 特集●ストライキ

2025年4月25日 掲載