ストライキの現代的意義と課題─日本の歴史と実態をふまえて

要約

禹 宗杬(法政大学教授)

本稿は,日本の歴史と実態をふまえ,日本でストが起こらなくなった理由を探り,そこから見えてきた事実に照らして,ストの現代的意義と課題について検討した。第一に,歴史については次のように要約できる。第2期の高度成長期に労働者の取り分を求めて盛んに行われたストは,労働運動主導勢力の交代もあって第3期に鎮静化し,第4期には経済成長が止まったためにほぼ消滅するようになるが,この動向には,経済成長の度合いと産業構造の変化という客観的な要因とともに,春闘の取り組みや労働団体の方針という主体的な要因も影響した。第二に,実態については次のように要約できる。現在ストが行われていないのは,労使間の信頼が厚いためであるが,この信頼は,労使協議に代表される話し合いの制度化という経路と,「工職混合」と内部昇進に基づくメンバー間の交流という経路を通じて形成されている。ただし,労使間の信頼が労使間の緊張関係を薄めてしまう問題を抱えている。第三に,ストの現代的意義と課題については次のように要約できる。労使間の信頼と緊張を両立させるためには,情動に基づく信頼だけでなく認知に基づく信頼を築き上げる必要がある。そのためには労使の利害関係が異なることを再認識するのが重要で,そのきっかけを与えてくれるのがストである。ただし,大企業の場合は一般組合員が,仕事重視の意識が強く仕事管理に組み込まれているため,ストを望んでいない可能性がある。この状況に突破口を切り開くには,日本独自の仕組みで行われている「標準以上」の労働提供を一時中止することと,労使協議を一時中止することが考えられる。


2025年5月号(No.778) 特集●ストライキ

2025年4月25日 掲載