戦略とHR施策の間におけるブラックボックスの解明─中途採用における人材要件定義の先行要因に着目して
要約
本稿では戦略的人的資源管理論で未だ議論の少ない「戦略とHR施策の間」のブラックボックスの視点を戦略的採用研究に用いて,日本企業の中途採用における人材要件定義の先行要因を検討した。具体的には321社の中途採用担当者への質問紙調査によって得たデータを用い,「人材要件定義の精度」を従属変数,「戦略と採用計画の整合」を独立変数,「経営-人事-部門の連携」と「人事の戦略的役割期待」を媒介変数として共分散構造分析と媒介分析を行った。分析の結果,「戦略と採用計画の整合」は「人材要件定義の精度」に有意な正の影響を与えており,「経営-人事-部門の連携」と「人事の戦略的役割期待」の間接効果も有意であった。理論的意義は3点である。第1に戦略的採用研究の精緻化への貢献である。戦略が採用施策に影響を与えることが示唆されてきたが,その実証的な研究は見当たらない。戦略から「人材要件定義の精度」に繫がるメカニズムのひとつを提示することができた。第2に,これまで看過されてきた「戦略とHR施策の間」のブラックボックスに着目をし,その中身の一端を明らかにしたことである。その知見を蓄積できたことは意義があるだろう。第3にHR施策のシナジー効果の解明に寄与したことである。シナジー概念は理論的な曖昧さが指摘されてきた。人材要件定義の精度が高まるメカニズムを明らかにしたことにより,HR施策の組み合わせ方の一端を明らかにした。
【キーワード】人事労務一般,雇用管理,労働移動
2025年2・3月号(No.776) 公募特集●組織における人の管理の実態・背景・効果
2025年2月25日 掲載