オランダにおける多様な働き方の経緯

要約

久保 隆光(明治大学講師)

オランダでは,1970年代後半の高い失業率の改善策として,労働時間の短縮とパートタイム労働によるワークシェアリングが期待された。失業改善を図りたい主力産業の製造業のフルタイム男性労働者は,集団的労働時間の短縮によって多くの雇用の場を創出することを望み,パートタイム労働の活用には消極的であった。ワーク・ライフ・バランスを図りたいサービス産業のパートタイム女性労働者は,均等待遇と柔軟な労働時間調整を望んでいた。ところが,オイル・ショックの影響によって製造業のフルタイムの男性労働者が減少し,他方でサービス産業を中心にパートタイムの女性労働者が増加し,これまでの労働組合内でのバランスの均衡が崩れたこと,そして女性パートタイム労働者の組織化に成功したことから,労働組合内で女性のプレゼンスが高まった。その結果,労働組合内でパートタイム労働に関わる労働条件の是正が主要なテーマとなった。また柔軟な労働調整が可能なことからパートタイム労働の活用に使用者も同意した。均等待遇を貫徹しながらも,フルタイム労働の標準から逸脱した働き方を促進させ,多様な働き方をオランダは推進している。また,「画一的かつ集団的労働時間の短縮」から「柔軟かつ個別的労働時間調整」への転換の取り組みは,これまでの「集団的」な「管理」ではなく,これからは労働者の「個別」の「支援」が重要であることをオランダは例示している。


2023年12月号(No.761) 特集●多様な属性の正社員

2023年11月27日 掲載