特集趣旨

労働統計の現在とこれから

労働問題の研究のためには,実態把握と理論的な考察の両方が必要である。労働市場の実態把握は,労働統計の観察を通して行われることが多い。現在,様々な種類の労働統計が存在し,オンラインで利用可能なものも多くあるため,専門家だけではなく,労働問題に関心を持つ初学者が何らかの統計にアクセスし,集計することが容易となっている。

しかし,労働統計の特徴を踏まえたうえで,労働統計を十分に使いこなすことは,初学者だけではなく,専門家であっても難しい。そもそも統計調査は,ある実態の一側面を捉えたものである。それゆえ,調査方法や調査対象は適切か,調査項目は計測したい概念と対応するか,集計結果から何が言えて何が言えないのかなど,用いた統計の特徴を理解しておくことは,得られた集計結果から誤った解釈を導き出さないためにも必要不可欠なステップである。

本誌ではこれまでに,「労働統計を読む(1995年1月号)」,「あらためて「データ」について考える(2006年6月号)」,そして「テーマ別にみた労働統計(2013年4月号)」と,労働問題を分析するのに必要不可欠な統計について特集してきた。今,前回の特集から9年が経とうとしているが,この間の研究潮流,データの利用可能性,そして統計調査をとりまく環境は大きく変化した。本誌では毎年,4月号で初学者を対象とした特集を組んでいるが,このような現状を踏まえ,2022年4月号である本号では労働統計を重ねて取り上げることとした。

本特集では,労働統計を個別の統計と統計(データ)のタイプに分けて紹介する。個別の統計としては,『国勢調査』,『就業構造基本調査』,『賃金構造基本統計調査』など10の政府統計を取り上げた。統計(データ)のタイプとしては,サーベイ調査,パネルデータなど,特定の調査ではなく調査方法の視点から5つ取り上げた。本特集で取り上げる労働統計は,労働市場を把握するうえで重要なものばかりだが,たとえば,労働市場のフロー情報を把握する『雇用動向調査』は取り上げていないなど,必ずしも網羅的ではない。その代わりに,『外国人雇用状況の届出』,『派遣労働者実態調査』,自治体データ,位置情報など今後活用が進むと考えられる調査を取り上げた。

本特集を組むにあたり,取り上げる統計や統計(データ)のタイプに精通した研究者に,統計の特徴,他の統計にない利点や利用にあたっての留意点,統計間の整合性,代表的な研究例,応用可能な研究を挙げていただくよう,執筆を依頼した。各エッセイは,限られた紙幅の中で,執筆者自身が初学者に伝えたい点を中心にまとめられている。詳細は各エッセイをご覧いただきたい。また,本特集のはじめには,統計を利用するにあたっての留意点に関するエッセイを掲載している。なお,各エッセイは2022年1月末までの情報に基づいている。

初学者だけではなく,多くの研究者の方たちにも本号の論考を是非ともご一読いただきたい。

(編集委員・佐野晋平,原ひろみ)

2022年4月号(No.741) 特集●労働統計の現在とこれから

2022年3月25日 掲載