論文要旨 韓国における就業規則の不利益変更への集団的同意
─不利益変更の「有効要件」なのか「拘束力要件」なのか

朴 孝淑(東京大学客員研究員)

韓国の就業規則法制は、勤労基準法第94条1項但書により、就業規則の不利益変更には労働者の集団的合意が法律の明文の規定によって要求されている。これは、就業規則を不利益に変更する際には労働者の集団的意思決定方式による同意を必要とした1977年の判決を、1989年の勤基法改正で明文化したものである。このように就業規則の不利益変更に法律上要求される労働者の集団的同意が存しない場合、韓国では一切の就業規則の不利益変更の効力が否定されることになるのであろうか。

この問題について、韓国の大法院判例には興味深い展開がある。すなわち、1992年大法院全員合意体判決以前は、労働者の集団的同意がない以上、就業規則の変更自体無効であり、就業規則の変更以後に入社した新規採用労働者に対しても効力を持たないとする立場が採られていた。しかし、1992年の大法院合意体判決は、従来の立場を覆して、労働者の集団的同意を得ることなく変更された就業規則であっても、既得権の侵害が生じない新規労働者に対しては、変更就業規則が「効力を持つ」とする新たな判断を下した。

本稿では、韓国における就業規則の不利益変更について法定された労働者の集団的同意が、変更の有効要件なのか、従前の労働者に対して効力(拘束力)を持つための要件なのかをめぐる判例・学説の議論を紹介・分析し、近時同様の問題について展開されつつある日本の議論の参考に供する。

2014年特別号(No.643) 自由論題セッション●第3分科会(労働市場と労働法制)

2014年1月24日 掲載