論文要旨 アメリカ企業における新卒採用─その実態と含意

関口 定一(中央大学商学部教授)

職業経験のない新規学卒者を卒業直後に定期的に一括大量に採用する政策は、日本企業に固有のものと看做されてきた。これに対して欧米諸国では、職業経験や職務に直接かかわる知識や資格をベースにした採用が行われ、新規学卒者は職業経験のある既卒者と同じマーケットで職を求めて競い合うという認識が一般的である。

本稿ではアメリカ企業における新規学卒採用の一部をなす「カレッジ・リクルーティング」または「キャンパス・リクルーティング」と呼ばれる採用方式の実態を長期にわたって観測し続けたノースウェスタン大学プレースメント・センターの報告書のデータ(1947年~1994年)を用いて、アメリカ企業における新卒採用の実態を再現し、その結果を、我が国の新規学卒採用と比較検討する。

この報告書の提供する情報は、アメリカ企業において新卒採用が以前から広く普及しており、制度的に日本の新卒採用と多くの共通点を有すること、しかしながら同時に、両国の労働市場・雇用制度の違いなどに由来すると思われる重要な差異も存在することを示している。

本稿では、日米の比較を通じて、これまで日本企業における実態観察の上に組み立てられてきたさまざまな仮説が、形式的に類似したアメリカの新卒採用の実態を説明する上でどれだけの有効性を持つのか、また、もしアメリカ企業において欠員補充ではない新卒採用が継続的かつ広く行われているとすれば、それは従業員の企業内キャリアや退職の仕組みとどのような関係を有しているのか、といった論点を議論する素材を提供することを意図している。

2014年特別号(No.643) 自由論題セッション●第3分科会(労働市場と労働法制)

2014年1月24日 掲載