論文要旨 職場のいじめ、パワーハラスメントの行為類型の概念整理─被害者・第三者間のいじめ認識の乖離に着目して

杉村 めぐる(JILPTアシスタント・フェロー)

長沼 裕介(早稲田大学大学院博士後期課程)

本研究の目的は被害者・第三者間におけるいじめ認識の乖離の存在に着目し、その乖離の溝をどのように埋めるべきか議論することにある。具体的には厚生労働省が示した6つの行為類型を4象限マトリックスとして整理することを通して議論を展開している。

近年、日本の個別労働紛争において職場におけるいじめに関する事案の件数の増加が顕著であり、また深刻ないじめのなかには被害者が自殺に追い込まれるようなケースも散見されるようになった。このことから職場でのいじめは重大な労働問題にまで発展してきたといえる。だがそうした事態にもかかわらず、今日においては労使の相談対応者等の第三者がいじめの実態を適切に把握、処理しているとは言い難い。そのため被害者は第三者による解決の期待の低さからいじめを受けても我慢する傾向がある。いじめの我慢はメンタルヘルスの不調に繋がるリスクが高いことから、いかに第三者が被害者にいじめを我慢させないようにするかが重要な課題である。だがここで問題となるのは、被害者にはいじめと認識されやすく、第三者にはいじめと認識されにくい行為をどう処理すべきかである。

本研究では、どのような行為をいじめと感じるかは被害者の主観によって異なる以上、第三者は被害者がどの行為に対してどの程度の我慢を強いられているか計り知ることはできないという理由から、被害者の主観的ないじめ認識に依拠した対応が重要であると論じた。

2014年特別号(No.643) 自由論題セッション●第2分科会(職場とキャリア形成)

2014年1月24日 掲載