論文要旨 高齢層の雇用と他の年齢層の雇用
─「雇用動向調査」事業所票個票データの分析

永野 仁(明治大学政治経済学部教授)

2006年に、60~64歳の「雇用確保措置」の設置義務が企業に課せられるようになった。そのことは、高齢者の雇用動向にどのような変化を促しただろうか。またその変化は、「他の年齢層の雇用」へどのような影響を与えたのだろうか。

これらの点をみるために、厚生労働省「雇用動向調査」事業所票の2005年・2007年・2009年の各上半期個票データを分析した。その結果、常用労働者に占める高齢層(60歳以上)の割合は確実に増え、2005年の8.8%から2009年の11.6%へと高まっていることが確認できた。

次いで、年齢計の常用労働者数に占める各年齢層の常用労働者の構成比が、どのような要因によって決定するかを分析した。その結果、2005年と2007年に関しては、高齢層の雇用を優先させた結果、若年層が仕事を失ったという主張はあてはまらないと考えられた。しかし2009年では様相が異なっていた。その時点の雇用増の多くは、雇用確保措置の実施に費やされたと考えられたからである。これには、リーマンショックの直後という経済状況も影響していると思えた。ただし、高齢層の雇用増によって若年層(29歳以下)雇用が打撃を受けたのではなく、それより少し年齢が高い中堅層(30~44歳)が影響を受けていた。この時点で、若年層に対する影響が少なかったことには、新卒者重視という企業の採用慣行が影響していると考えられた。

今後、長期的には、高齢者就業を促進していくことは不可欠である。しかし、景気の悪化する局面において、それをどう実施していくのか、検討が必要な課題である。

2014年特別号(No.643) 自由論題セッション●第1分科会(高年齢者の労働)

2014年1月24日 掲載